台湾は、スマートフォンやPCに不可欠な半導体素子に関する、世界トップクラスの生産拠点。齋藤は、そんな台湾にある半導体メーカーの1社と新規取引をスタートさせ、着実に信頼を積み重ねて取引を拡大している。
用 途 : | 半導体製造クリーンルーム用、および製造装置用ケミカルフィルター |
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目 的 : | ケミカルコンタミネーション(化学物質混入)防止 |
使用場所: | 台湾 |
設備規模: | 天井用フィルター約200枚、装置用フィルター10~20枚/台×20台、ほか |
受注金額: | 約4000万円 |
期 間 : | 2008年~継続中 |
「研究開発職を1年間経験した後の2008年、技術営業になって任されたエリアの一つが、東南アジアでした。一度も海外に行ったこともなかったのに」と笑う齋藤。担当した中の1社が、ピュアテックの製品を現地ユーザー企業に販売する台湾の代理店(商社)だった。先方担当者は日本語の堪能な現地人。上司とともに現地へあいさつにうかがい、相手が旅行を兼ねて来日した際には宴席を共にするなどして親交を深めていくうち、「ユーザーの半導体工場で使用するクリーンルームの天井用フィルターを提案してほしい」との声がかかる。それまで使用していた他社製品に代えて、よりコストを抑えられるフィルターが欲しいというのだ。「他社製品は3カ月交換。それに対して、素材の異なる当社の製品なら、設計次第で半年近くまで長寿命化し、コストダウンできる」。齋藤はそう確信した。
ケミカルフィルターの設計は、除去すべきガスに対して最適なフィルターの種類の選定と、性能を出すのに必要な形状・サイズ・重ねる枚数の計算をすることだ。齋藤が考え抜いた設計はユーザーに受け入れられ、200枚・総額600万円にのぼる大型受注となった。ただし問題が一つ。台湾の商習慣では、想定通りの性能・効果を確認できて初めて、正式な受注となる。そこで齋藤は設置後も、半年間にわたって毎月、検証のため自ら現地へ飛んだ。200枚のうち5カ所程度のフィルター前後の空気をサンプリングして持ち帰り、自社研究所に対象ガスの分析を依頼。結果が出れば説明に飛ぶ。「多い時で月3回、帰国してはまたすぐ出発ということもありました」。最終的にはユーザー企業からも認められ、1年後には新たに半導体製造装置用のフィルターも受注。技術面の特殊な要求にも、製造業者の協力を得て無事に応えることができた。齋藤は着実に、ユーザー企業からの信頼を積み重ねていた。
ところが2016年、アクシデントに見舞われる。最初の受注とは別の天井用フィルターを設置した際、魚の腐敗したような異臭が発生する騒ぎとなったのだ。代理店から連絡を受けて即座に現地へ飛び、対応に奔走した。「社内で聞いて回っても誰も経験がなく、原因究明に苦労しました」。文献でやっと探し当てた異臭の原因はこうだ。このフィルターに使われていた“イオン交換樹脂”はある温度以上で分解を始める。夏場の船便での輸送はコンテナ内が非常に高温になってしまうため、分解反応が起きてしまったのだ。信頼回復のため齋藤は「今やれることをやるしかない」と、社長も伴って現地へ行き、根気強く説明を続けた。その結果、最終的には代替品を空輸で納入することでどうにか理解を得ることができた。数々の壁に直面しながらも、「空気という目に見えないものを、自分で一から設計し、その効果を証明できることが喜び。それにこの製品がなければ、スマートフォンの通信も、クルマの自動運転も実現しない」と笑顔を見せる齋藤。ケミカルフィルターには今後、中国やシンガポールなど、さらに大きな市場が待ち受ける。この先も彼は、自分自身、そして他の誰もがまだ経験していないことに直面しながら、やれることを全力でやり、乗り越えていくに違いない。